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02-03



02-03   無声






「ねぇ、」
 
すらっとした立ち姿の男の人だった
俺達よりか少し年上くらいの、明るめのグリーンの長髪にモノクロカラーのキャップを目深に被り
その表情は捉えにくい
至るところに古代文化を思わせるようなアクセサリー
夕闇に光るそれはどことなく不気味な雰囲気
 
俺とチェレンの目の前で止まり話しかけてきた
 
「キミのポケモン…今、話していたよね……」
 
だけど話しかけてきた言葉は早くて、聞き取るのが億劫なかんじ
相手のそんな言葉に、俺よりもチェレンが先に反応する

「随分と早口なんだな………それにポケモンが話しただって?おかしなこと、言うね」
 
チェレンの意見に俺も無言で頷いく
けれども目の前のその人は毅然とした態度で
 
「ああ、話してるよ」
 
と続けた
あたかもそれが、ポケモンが話すことが当たり前のように
 
「そうか、キミたちにも聞こえないのか………可哀相に………」
 
早口でそう言う彼の、あまり見えない表情はなんとなく、慈悲を纏ってる気がした

「ああ、ところで名乗ってなかったよね、ボクの名前はN」
 
N、名前というよりイニシャル的な気がしたけれども
追求するほど名前には興味がない
名乗るべきか、ただNには正直いい印象はなかったことは確か
チェレンの方を見たら、怪訝そうな表情をうっすら、やっぱりどこと無く警戒はしているよう
だけどチェレンはそのまま言葉を綴った
 
「……ぼくはチェレン、隣にいるのはブラック、ポケモン図鑑を頼まれ旅をしているんだ…旅の目的はみんな色々で、ぼくの目標はチャンピオンだけど」
 
ポケモン図鑑
 
と言う単語を聞いた時、Nの表情が険しくなったのを
俺は見逃さなかった

「ポケモン図鑑、ね…そのために数多くのポケモンをモンスターボールに閉じ込めるんだ」
 
刺のある明らかな否定の意見
概念は間違ってはないけど、俺は少なくともポケモンを乱獲するつもりもなく、
そんな言われ方が障った
 
「そんな事、言うあなたは?…トレーナーじゃないのですか」
 
思わず言葉が転がった内心、しまった、なんて思ったけど仕方ない

「ボクもポケモントレーナーだよ、だけど何時も疑問に思う…………ポケモンはそれでシアワセなのかって」
 
早口で、そう言いながらNは俺に

ずいっ

と、間合いを詰めてきた
 

夕日は落ちて、風は肌寒い吹き抜けた
風が髪を揺らし、街灯には仄明るいオレンジの光が宿る
逆光で見たNはとても、そう、言うなれば病気的に白かった
 
「そうだね、ブラックだったかな?」
 
Nの瞳が薄く笑う
 
「キミのポケモンの声、もっと聞かせてもらおう!」
 
Nが話あげるのが早かったか
Nのモンスターボールが開くのが早かったか
 
淡い光に包まれNの足元にチョロネコが現れた
何だか予期せぬ展開に俺は小さく溜め息を吐く
 
理不尽
 
とはこんなことだろうか

逃げるなんてのは出来ない
腑に落ちないけどやるしかない

俺はツタージャ、アルグレイの入ったボールに手をかけた
 
アルグレイ、頑張ってくれ
 
ボールを投げツタージャを繰り出しす
昼間に太陽を浴びたからか、弾けるような新緑の香が広がる
 
キュイっと澄んだアルグレイの声が響いた

光を透かした紅茶のような色の大きな瞳で、アルグレイはNを見上げていた
それを見つめるNの顔は変わらず、ただじっとアルグレイを見ていた
そうして、相手の出方を伺っていた時だった
 

突然チョロネコが間合いを詰めてきた

「チョロネコ、ひっかく!」
 
Nの指令もやはり早口で、でもしっかりとチョロネコはついていってる
……なんて俺も感心している場合ではない

「アルグレイ左に跳べ!」
 
間一髪、先手をかわす
 
素早いな、チョロネコ
でも素早さならアルグレイだって負けてない

「アルグレイ!体当たりっ」
「チョロネコ、かわすんだ」
 
アルグレイが捉えかけていたチョロネコは
Nの声と共に姿を消した
 
「…なっ!?」
「ブラック!!後だっ!!」
 
チェレンの叫びに反応するも、それは遅すぎて
チョロネコはアルグレイの背後から現れた
 
「アルグレイ!!」
 
不意打ちを喰らったアルグレイは地面にたたき付けられた
 
「キミのポケモンの声をもっと聞かせてくれ!」
「ポケモンの声って何ですか!?」
 
俺がいくら声を上げようと、返答はもらえない
うっすら笑みを浮かべる顔に苛立った
 
そろそろ反撃といきたいところ、真正面のスピードで劣るならばフィールドを変えるまで
 
「行くぞ!!アルグレイ」

アルグレイが立ち上がり、俺の声に頷いた
 
「構えろ、来るぞ!」
「もう一度、ひっかく」
「ジャンプでかわせ!」
「チョロネコ、追いかけて、ひっかく」
 

よし、かかった!
 

二匹高く空に舞う

不安定な空中、

チョロネコがアルグレイに手を伸ばす

瞬間
 
「今だ!アルグレイ!蔓のムチ!!」

キュイ と澄み切った声

相手のポケモンに悪いし、不謹慎かもしれないが

その様子がとても綺麗で
 
淡いオレンジの街灯と月明かりを浴びて緑を色濃くするアルグレイ
チョロネコに絡み付くワイヤープランツは昼間に見たものよりも力強く
緑の蔓に侵食されゆく様は自然の力を重い知らされる
 
降下しつつ、絡み捕らえたチョロネコにアルグレイの尻尾がたたき付けられた
 
新芽の葉が散り、砂煙り
 
「アルグレイ、蔓の、ムチ」

 
空に響いた俺の声
 

立ち上がりかけているチョロネコにワイヤープランツが打ち込まれる

声にならない声を上げチョロネコは倒れた
 




「………………そんな」
 

Nの表情が大きく崩れた

驚愕、というのか
 
「…ポ…ポケモンがそんなことを言うなんて…!!」
 

Nの大きく開かれた瞳には戸惑いが滲んでるように思えた
 




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