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Crop Of Crimson Fruit


sonic SS

Crop Of Crimson Fruit

シャドエミのお話。
ちょっと甘めなお話です。





WANNING CORD:0005851
ERROR

PROGRAM DOWN
 


本日何度目になろうかわからない文字列がパソコンのモニターに発生し画面は強制的に落とされた
昨日の深夜からGUNのコンピュータシステムに異常が発生していた
午前中まではエージェントの機器は正常に動いていたものの昼を過ぎたあたりからこのありさまだ

どうしようもない怒りを深いため息に変え、冷え切ったコーヒーを一気に煽った
苦みが口内と言わず全身に染み渡った
 
「んもぅ!!!何なのよ!これじゃあ仕事終わらないじゃない!!!」
 
向かいの大型モニターのデータ処理をしていたルージュが金切り声を上げた
ルージュの画面にも同じ文字列が刻まれていた

「・・・騒ぐなルージュ」
「そんなこと言ったって、だってもう何なよ!シャドウあんただって頭にくるでしょ!?」

やってらんないわ!とルージュは席を立った

「何処に行くんだ?」
 「何処かよ!システムが直るまで戻らないから!!」
「手作業の書類があるだろう」
「知らないわよ!シャドウやっといて!!」

たたき付けるような口調で言葉を残しその蝙蝠は部屋を出ていった
 
「ルージュ!」

留めようと名前を読んだが遅かった
部屋に残ったのはエラー続きの機器と大量の書類そして自分
 
再びため息をついた

仕方なくとりあえずルージュの残した書類から片付けようと山積みの書類に手を伸ばしたとき
手元の通信機が鳴った
 
「なんだ、オメガ」
「シャドウ二、ライキャクダ」
「来客・・・?」

来客の予定はないと突っぱねようとしたとき オメガとの通信は切れ部屋のドアが開いた

「シャドウ?お邪魔するわね、いきなり来ちゃってゴメンなさい」

今いいかしら? と開いたドアに視線を送れば

そこには桃色のハリネズミが首を傾けて微笑みながら立っていた
こちらと暇なわけではないがどうしようもない状況である
それに彼女に悪いとも言えずとりあえず彼女を中央のソファに通した
 
「今日GUN何かあったの?みんな急かせしてて忙しそうだし、さっきルージュに会ったけど何か怒ってたみたいだし」
「いいや・・・別に何も」
 
と答えたが彼女の瞳は後のモニターに映った夥しいエラーコードを捉えて

「ふーん、そういうことね」
 
と事情を理解したようだった
 
「ちょっと忙しい時に来ちゃったな」
「・・・何か僕に用があるのか?」
「いや、用事ってそんなたいしたことじゃないんだけど…」
 
はい っと彼女は後ろ手で持っていた大振りのバスケットを僕の目の前に突き出した
シナモンの甘い香りが鼻をくすぐった
 
暖かく少し懐かしいような感覚 そう、これは
 
「・・・アップルパイ・・・?」
「そう!アップルパイ、ナックルズがねエンジェルアイランドでたくさんリンゴ採れたからって」

そう言いながら彼女はテーブルの上にアップルパイを置いた
部屋に甘い香りが弾ける

「たくさんリンゴもらったから、だったらシャドウにもおすそ分けしようって…  あ、もしかしてアップルパイ嫌いだったとか…」
「…甘いものは………嫌いではない」
 
そう応答しながら僕は先程コーヒーを入れ、飲み干した空のマグを片付け
新たにカップとソーサーを取り出した
近くに置いてあったコーヒー・ミルから挽いたコーヒーの香りが微かに漂う

「良かったぁ、何も考えないでアップルパイ作ったけど、 持ってくときにシャドウがアップルパイ嫌いだったらどうしようって思っちゃってね」
 
と彼女は肩をすくめた
 
「あと、そのまま食べても美味しいから」
 
と彼女はアップルパイの隣にリンゴを二つ置いた
グレースケールの暗めの光の部屋に赤く熟したリンゴはよく映えた
 
「他の奴の所には行かないのか?」

ふとした疑問が頭を過ぎった
 
「あ、アップルパイ?テイルスとナックルズには持ってったわよ、クリームと一緒にね」
 
そう言いながら彼女はしなやかな指先でリンゴを転がす
 
「ソニックはいいの、どうせいないもの」
 
伏せ目がちに笑う あぁ またあの表情〈かお〉だ
 
「そうか」
 
と返しながらも彼女にかける言葉を失った

「どうせまた勝手に帰ってまたいなくなって・・・じっとしきれないのよねアイツ」
 
そうして彼女はリンゴを両手で包み見つめる
 
「追い付きたいか?」
「あたりまえじゃない」
「ならば追い付けばいいだろう」
「でも・・・追いつけないもの」
 
知ってるでしょ?と微笑んで彼女は視線を僕に送った
少し諦めを知ってるエメラルドの瞳に戸惑った
 
カチャリと音をたて、僕はティーポットの蓋を閉じた

弾けるようなアールグレイの香り、そして甘いシナモンの香りが空気を揺らす
その香りが思考を鈍らせる

「あ、シャドウ?リンゴは好き?」
 
突然の脈絡のない言葉が彼女の口から落ちた
 
「ん…あぁ…」

僕も突然すぎたために曖昧な鈍い返答しか出てこない
彼女は僕のそんな返答を聞くと先程、手の中で転がしてたリンゴをむきだした
別にそんなことは頼んでないのだが、おそらく彼女の厚意であろう、それを断れなかった
 
ジャンピングする紅茶越しに彼女を見据える

彼女の手の中でリンゴが滑るように動く
 
コトッ、とリンゴの一片が皿に置かれる
そしてまた彼女の手の中で流れるようにリンゴが滑る
その動きに合わせ僕はティーストレーナーに紅茶を落とす
彼女の手の平に流れ転がっていた最後の一片のリンゴはウサギの姿を成して皿に置かれた

紅茶を注ぐ音 彼女が果物ナイフを拭き取るきぬ擦れ

そして彼女は言葉を紡ぐ

「…じゃあ、あたしそろそろ帰るわ」
 
そう言って彼女はゆっくり腰をあげる
その動きがスローに見えた

確実に僕の瞳は彼女を追っている
 
彼女がソファより数歩離れたときに僕の思考は動き出す
 
僕は左手で彼女の手首を掴んで彼女の鼻先に紅茶を差し出していた
人を引き留める術など、僕は力以外には知らない

君ともう少し、君の声をもう少しこの時間を・・・
 
だから今これが僕に出来る精一杯の・・・
 
彼女のエメラルドの瞳を覗き込む
 


「    」
 



躊躇した僕の言葉より先に彼女のエメラルドが微笑んだ
 

「ありがとう」
 

いつもの笑顔

笑ったその表情はいつかの遠い記憶の少女に似ていた
 


(ねぇ、シャドウ アップルパイは好きかしら?)
 




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