忍者ブログ

カレンダー

04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31

ブログ内検索

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

01-04


01-04   旅立ち



さて、研究所の前で座り込んで数十分が経過した
 
まぁ、その、待ちぼうけというやつなんだが
俺はともかく、いや、どれくらい待とうが気にはしないが
そろそろチェレンは限界のようで片足をパタパタとさせ苛立ちを示している
 
「…チェレン?」
「ブラック、いくら何でもベルは遅すぎじゃないか?」
「んーまあね」

別にいつものことじゃないか
 
「そんなに言うなら向かえに行きなよ」
「何でぼくが…!待たされてるのは君も一緒じゃないか、ぼくだけ行くのはフェアじゃない」
 
フェアじゃないその言葉を聞くのは本日二度目
フェアじゃないと言いつつ向かえに行くのは億劫で、その言葉、たぶん遠回しに俺に向かえに行けと訴えてる
 
「…わかった、俺が見てくる」
 
重い腰を上げて立ち上がる
結局世話を焼く自分がなんとも情けなくも感じる瞬間だ

たいした距離でもないわけだし、とザクザクと砂音を響かせベルの家に向かった
 

カノコタウンの南側
 
ベルの家を訪ねチャイムを鳴らすが返事がない
というか、家の中から途切れ途切れに声が聞こえる

すみません、と一声かけ玄関を勝手ながら開く
 
すると雷でも落ちたが如く
ベルの父さんの怒鳴り声が響いた

「駄目だ!駄目だ!!駄目だ!!!!お前のような世間知らずの娘がポケモンと一緒に旅に出るだなんて……!」
「あなた!落ち着いて!!」
「パパの馬鹿!!あ あたしだって……ポケモン貰った立派なトレーナーなんだもん!!冒険だって…出来るんだから!!」
「あ!!ベル!!待ちなさいっ!」




マズイ
 

と思った時にはベルがこっちに走り込んできていた
目には涙を浮かばせて

「…!ブラック!」
 
ガシッとベルに左腕を掴まれ、そのままの勢いで後に引きずられた
 
「…ベル?」
 
勢いよくドアが閉まった

「…ご ごめんね、ブラック」
「いや、…別にいいけど、大丈夫?」
 
自分で言っといて何だが、何にたいしての大丈夫?だったのだろうか
 
「あっ、うん………大丈夫だよ!………大丈夫だから、ごめんね、あたし先に研究所に行くからね…!」
 
ポーカーフェイスなんて出来ないくせして、気丈に振る舞ったつもりだろうか
……なんて、気がついたら結局俺がおいてきぼり
 
あーあ、なんて損な役回り

そう吐き捨てて今来た道を辿った





研究所に戻ると先程より幾分か機嫌の戻ったチェレンとベルが待っていた
ドアをノックし、研究所の中へと招かれた

「随分遅かったじゃない?待ってたわよヤングボーイにヤングガール!」
 
すみません、ごめんなさいを口々に漏らした
 
「まぁ、いいんだけどね、それよりも!君達もうポケモン勝負したのね?」
「博士、ポケモン見ただけでそんなこともわかっちゃうんですかあ?」
「ええ、ポケモンの目を見れば、…それでかな?みんないい目をしてるわ、ポケモン達もあなたたちを信頼し始めた…って感じかな」

そう言われると何だか嬉しいだけど、目を見たらわかるなんて、
いつか俺にもわかるようになるのだろうか
何とも不思議なもんだろう……

「もうみんな気付いてると想うけど…君達にポケモンを託した理由……」
「ポケモン図鑑…ですか?」
「そう!チェレン、ご明答!!あなたたちの旅にこのポケモン図鑑を一人ずつ託します!」
 
そう言ってアララギ博士は俺達、一人一人に図鑑を手渡した

「色んな人がいるように、色んなポケモンもいる、だからこのイッシュの地の知らないところに赴いて、色んな出会いを体験し、全てのポケモンに出会って、図鑑を埋めてほしいの!そしてその出会いと経験があなたたちの思い出になるように、旅に出掛けてほしい」
 
アララギ博士のその言葉にまだ見ぬ世界に胸が踊った
今やっと実感した、旅立ちの日を
今いる世界がクリアに見える
 
そして博士から旅の餞別と称して空のモンスターボールを五つ渡された
 
「いってらっしゃい、期待、してるわ」
 
ありがとうございます を声をそろえて告げ、研究所を後にした
 


春風暖かなお昼前、少し緊張気味な俺の心臓はいつもよりも鼓動がはやい
 

「あっあたしたち図鑑も頼まれたし、トレーナーになったし、…その、旅してもいいんだよね?自分のやりたいこと、探してもいいんだよね?」
 
訴えるようなベルにチェレンが返す
 
「ああ、図鑑を完成させながら好きなように旅をすればいい」
 
好きなように…か、俺は何を求めて旅に出よう?

見上げた太陽が眩しくて目を細めてみた
零れた光がとても綺麗…

「何だかドキドキしてきた!ねぇ、ブラックはツタージャと何をするの?」
 
好奇心を持て余したベルが俺に問いかけてきた
 
「んー…俺は」
 
言葉が紡げず、困る
何とも言えなくて
 
その時、後から俺を呼ぶ母さんの声がした
 
「!母さん!!」
「…アララギ博士に図鑑、頼まれたんでしょ?」
「何で…母さん?」
「実はその話 知ってたのよね、……みんな旅して、色んなもの見て、成長しなさいね!」
 
みんな、ポケモンと旅して成長するのよ、と母さんは笑った
 
「これは私からあたなたちに餞別」
 
そう言って母さんが手渡してくれたのはタウンマップ
 
「大切に使わせてもらいます」
「あ ありがとうございます」
 
チェレンとベルにも同じように手渡して
旅の必需品でしょ?と付け加えた

旅を応援してくれるのは嬉しい、だけど心残りというか、心苦しいことが一つ
あの俺の部屋の惨事

「あ、あのさ…母さん、その…俺の部屋…」
「なぁに?いいのよ、気にしなくて!旅立ちの日でしょ?気持ち良く送り出させてくれたっていいじゃない!部屋は母さん、やっとくから!…さあ、行ってらっしゃい!!」
 
そう言って母さんは笑顔で俺達を送り出してくれた
 
手を振る母さんに背を向けて

ゆっくり俺達はカノコタウンから遠ざかる
 


1番道路、手前

一歩踏み出せば、冒険が始まる
 


「ねぇ!最初の一歩はみんな一緒にしようよ!」
「いいね、ぼくたちの旅を祝って、さ」

二人の提案に俺も頷く

「…ようやくトレーナーになれたんだ、たくさん戦って強くなるよ、ぼくは」
「あたしはこの旅でやりたいことを見つけるの!ブラックは?」
「俺?俺は…まだ何も…」
「まあ、ブラックらしいよね、そういうところ」
「ま、旅しながら考えるよ」
 
何がしたいなんて、わからないけれども
気持ちはとても新鮮で、

何でも出来そうな気がした
 
「ブラック、ベル、いくよ!」
「ああ!」
「うんっ!」
 



「「「せーの!」」」
 







桜舞い散る春風の中

思いはそれぞれ、冒険が始まった




拍手[0回]

PR