忍者ブログ

カレンダー

04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31

ブログ内検索

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

01-05


01-05  なまえ




花びら舞い散る1番道路
 
チェレンとベルと俺は各々歩くことにした
たどり着くのは同じ町だけど
 
いつもの三人で歩いたっていいけれど
目指すものは違うわけで、自分の道は自分で決めるため
 
せっかくの旅だし、成長するため
 
それに急ぐ旅でもあるまいし、というか朝の眠気をいまだに引きずってるんだけど
気を抜けば、欠伸が心地よい眠気を送り込んでくる
 

今日は、ホントにいい天気
 
あまり整備されてない、自然の道春に芽吹いたばかりの新緑の木々が目に眩しくて
雪解け水でミネラルが含まれた、やわらかな土の道は
買って間もないハイカットスニーカーに知らない感触を教えてくれる

時折、ミネズミが木の上からこっちをみてたり
見上げた空はマメパトが集団で行き交っている
 
見えたもの全てが新しく見えて図鑑を向けてスキャンする
 
………そういえば、 カノコタウンを出てからツタージャに触れてない

そのうえ、まだ俺はツタージャのことだって何も知らない
 
まずは、知ること
図鑑のカーソルをツタージャに合わせる

 
『ツタージャ:くさへびポケモン
知能が高く、とても冷静。
太陽の光をたっぷり浴びると動きがするどくなる。』
 

太陽の光か、そうだよな
くさ、タイプだもんな
 
今日はいい天気
 
出てこいよ、と俺はツタージャのボールを軽く足元に投げた
 
ふるふると体を揺すって
ツタージャは鳴き声をあげた
 
淡い緑の香が微かに香る
 
俺の腰程しかない背丈のツタージャは大きな瞳で俺を覗き込んでいる
ゆっくり瞬きをし、首を傾げた
 
「あのさ、」
 
しゃがんで目線を合わせる
ツタージャの尻尾がふわりと揺れる

知能が高いとはいえ、人の言葉で
物言わぬポケモンと人と、いったい何処まで意思疎通ができるのだろう
 
そんなもの、未知数
希望も不安も

ツタージャの頭を軽く撫でる
 
「隣町まで一緒に歩かないか?」

ツタージャは目を何度も瞬きを繰り返す
 

…………伝わったのか…?
 
少しの無音の空気がちょっと息苦しく感じた
自分にいたたまれなくなって目線を逸らそうとしたときだった
 
やさしい、透き通った鳴き声とともに
少しうれしそうな、いや、もしかしたら俺の気のせいかもしれないが
そんな顔したツタージャが俺の肩によじ登ってきた
 
8Kgは肩に少々負担のある重さだが
なんだか嬉しい重みだった




 
「…自己紹介、してなかったな」
 
頭にしがみついているツタージャに話しかける
 
「ブラック、って…でも、もう知ってるかな?」

すると短く鳴いて ツタージャの尻尾が揺れた
それくらい、知ってるということか

そうだよな、名前くらい………
 
名前、
 
ツタージャを肩から下ろし、図鑑を向けスキャンする
 
「ツタージャは♂なのか…」
 
そして、ふと思う
 
ツタージャも
たくさんの種類がいるポケモンの中うちの
数多く存在するツタージャの中の一匹であって
一種一匹ではない
だけど、今俺の傍にいるツタージャは
世界中のツタージャの中でも一匹のツタージャなわけで、
 
たくさんの人間が存在し、各一人につき、一つの固有名詞があるわけで
 
例えば、俺
人間という種族がいて
その中のイッシュ地方の人間であり
その人間の中のブラックという人物で存在する
そして、ブラックと呼ばれることで固有の特別な一人になるような気がする
 
だったら、

ツタージャだって
ポケモンという種族の中のツタージャであるなら
その数多くのツタージャの中の一つの存在として固有名詞があっても素敵じゃないだろうか
 

そう思うのは俺のエゴかもしれない



だけど
 
「なぁ…ツタージャ」
 


俺の中で君は、すでに
 


「……提案がある」






特別な存在なんだ






「君に、名前を、つけたい」
 

どうだろう?
 
無理に、とは言わないけれど、もしツタージャさえよければ

「嫌なら、いいんだ」
 
再び、しゃがみ目線合わす
 
すると
 
ごく小さな、ツタージャの淡い緑の手がまっすぐ俺に差し出された
 

「………いいのか?」
 
そう聞けばツタージャの尻尾は大きく揺れ
弾んだ声で「キュイッ」と鳴いた
 
「ありがとう」
 
差し出された小さな手をとり やさしく抱きしめた

ふわり、優しい緑の香
 













「もう、ホントは考えてたんだ」
 
君の名前を
 

「…アルグレイ」
 


俺の大好きな、そう

「紅茶、から 俺の大好きな紅茶、アールグレイ …ツタージャの瞳のように澄んだ色のお茶で、ベルガモットの香が気高く優しい…」
 
君みたいに
 

「アルグレイ…どう?」
 
肩にいる彼に問う
 

クスクスと草木のざわめくような笑い声が聞こえ
新緑の尻尾がしなやかに大きく振られた
 







「よろしくな、アルグレイ」






太陽は真南、風は暖か


今日はなんて、穏やかな…




拍手[0回]

PR