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01-03


01-03   室内



ここは俺の部屋、なんて反論する隙もなく
それに俺もベルの声に反応していたらしく、気がついたらツタージャを繰り出していた


ポケモンを向かい合わせて睨み合う、この緊張感
双方ポケモンは小さいながら
ぶつかり合う空気の振動は大きくて
 
圧倒される
 
すごい、なんて言葉じゃ到底及ばない
新緑の体のツタージャは
ボール越しで見るよりも、ずっと綺麗で凛々しくて
 
ツタージャが纏う空気に俺の感覚は飲み込まれ
気がつけばバトルに夢中になっていた
 

「ツタージャ!体当たり!!」
「あぁっ!ミジュマルぅ!もう許さないんだからっ!!ミジュマル体当たりっ!」
 
技なんて知らない
ただただ全身でぶつかり合うだけの勝負
 
ミジュマルの攻撃をかわし、一気に叩き込む
ツタージャの体当たりがヒットし、ミジュマルは倒れた
 
「…負けちゃった!でも!どっちのポケモンもすごく頑張ったよね!!」

倒れたミジュマルをボールに戻しながらベルが微笑んだ
俺はツタージャに歩み寄り小さな手をとった
 
「…ありがとう」
 
ツタージャだけに聞こえるくらいの声で囁いた
俺の声に目を瞬かせる様子がどこかあどけなく、先程のバトルの空気を纏ってた同じ生物とは思えなかった
 


「…………………………はぁ… ベル、まわりを見てごらん?」
 
チェレンの溜息に我に返った
 


まわり…………



「!」
「うわぁ!な なにこれっ!?」

そこはいつもの清潔な俺の部屋ではな
くカーテンは裂かれ、植木の土は跳ね上がり、本棚は倒れてて…
竜巻かか何かが過ぎ去ったような荒れ果てた空間になっていた
 
「ポケモンって…すごーい!こんな小さいのにっ…じゃなくて!ブラック…!!!その ご ごめんね」
 
確かにすごい、
すごいのはすごいけれど
これは…ごめんね、では済まないだろう…

嫌な汗が背中を伝った
 
「…全く、君達は…ほら!回復してやりなよ!」

チェレンは苦笑しながらも傷薬を投げ渡してくれた
 
「ねぇ!チェレンも勝負してみたら?ブラックと」
 
え?まさかの二連戦?
でもチェレン、室内でするもんじゃないって言ってたし…
なんて思いつつチェレンを見たら 視線が合った

ニィっと口角が上がり
 
「もちろん、そのつもりさ!」
 
チェレンの口からあるまじき言葉
耳を疑う暇もなく

「君達だけでポケモン勝負を楽しむなんて、フェアじゃないよね?」
 
ああ…もう仕方ない
 
「……一緒に謝れよ?」
「ああ、もちろんさ  というわけで相手してもらうよブラック!」
 
そんなわけで俺の部屋は再びバトルフィールド
 

二匹のポケモンの声が轟いた
 








この部屋の有様は母さんに土下座もの、そんなことを脳裏に描きつつも
俺はバトルの空気に再び飲み込まれた
 










その姿が、あまりにも熱くて……













「…ブラック!君って人は…!…………はぁ、初めての勝負で思わぬ不覚をとったけど、次は負けないよ」
 
そう言いながらチェレンは倒れたポカブを抱き上げた
 
「感動だよね……ようやく、トレーナーになれたんだ………………って感動に浸ってる場合じゃないね、部屋のこと君の母さんに謝罪しなきゃね」
「あ あたしも!!」
「みんな共犯だろ?俺も、母さんに謝らないと…」


天国と地獄が対なるように
飴と鞭があるように なんて出来た世の中だ、そんな言葉を脳に走らせ階段を下る
 
そんな俺の心情を知ってか知らずか階段を下りながらベルがごめんねと呟いた
 
「騒がしくして本当にすみませんでした!!」
 
チェレンの言葉を筆頭に俺達は頭を垂れる
 



……………が、母さんの反応はない
というか、クスクスと母さんが笑う声がした

頭を上げて母さんを見れば、やはり笑っている
 
「……?母さん?」
「あ あのう…お片付け……」
「ふふ…いいのよ、片付けなんて私がするから」
 
叱られると思ってた俺達は拍子抜け
 
「で でも…」
「気にしなくていいのよ、ベル そんなことよりアララギ博士に会わなくていいの?お礼、しっかり言わなきゃ、ね?チェレン?」
「え!?あ…はい!では失礼します!!ブラック、ベル研究所の前で待ってるよ」
「あっ!じゃあ あたしも一度家に戻るね……おばさん、おじゃましましたあ」
 
母さんの一言をもらいチェレンとベルは外へ出た

どうなってるんだ……
 
思考がついていかない中、俺は母さんの顔を見上げるしかなかった
 
「懐かしいわ、ポケモン勝負」
 
母さんが俺を見下げながら話した
 
「母さんもね、昔はトレーナーだったのよ」

初耳、母さんがトレーナーだったなんて想像できない

「ブラックはどのコ、貰ったの?」
「…ツタージャ」
「そう、それなら、これからツタージャと一緒にたくさんの事、学びなさいね」
 
あんたも、アララギ博士にお礼言うんでしょ?と、背中を押された
 
「行ってきます」

そう告げて俺が玄関ドアに手をかけたとき 忘れ物、と母さんがライブキャスターを俺に放り投げた

キャッチしたライブキャスターは外の光に反射してキラリと光った
 



ドアが閉まる音を背中で聞きながら
全身で太陽の陽射しを浴びた






髪を揺らした風は微かに春の香を運んでいた



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